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とんかつ通信(不定期刊行物) 2000年新春号

編集・発行すずや店主(軽薄?敬白?)

<はじめに>

皆様こんにちは。いつも当店をご利用下さり誠にありがとうございます。
 
 やれ2000年問題だ、ミレニアムカウントダウンだ、と世界中で大騒ぎをして迎えた新たな千年紀ですが、果たして何か日常の生活に変化が起きたのでしょうか、また私達の意識も何か変わったのでしょうか?
 少なくとも私の周りでは昨年と同じ毎日が淡々と続いておりますが・・・。とはいえ、本日もこの星の数ほどある飲食店の中からすずやを選んでくだっさったことに心から感謝申し上げます。本年も皆様の期待を裏切らぬように頑張って参ります。どうぞ宜しくお願いいたします。

<最近思うこと>〜ご馳走が日常になったとき新たな恐怖が始まる?〜

「一度でよいから本場三ツ星レストランで美味しいフランス料理を香り豊かなワインと共にゆっくりと味わいたい・・・」。飽食の時代と言われる今日にあっても更にそんな贅沢な夢をお持ちの方も数多くいらっしゃるのではないかと思います。
 勿論私もその一人でした。そして遂に昨年の12月中旬、長年の夢が実現しました。すずやが本年秋に出店を計画中の多摩市南大沢のプロジェクトに関係する他社メンバーと共に、フランスのプロバンス、パリへと調査旅行に出かける機会に恵まれました。
 私は旅行に際して「初めて本場のフランス料理を堪能できる」と、出発前から心を躍らせて久しぶりにフランス料理の本やフランス語の辞典をめくりながら楽しく思いを巡らせました。

 さて、いよいよ現地に着き南仏の都市マルセイユから100キロほど内陸に入ったプロバンス地方のエクサンプロバンスと言う小さな町の郊外にある三ツ星レストランに行きました。
 シャトーを思わせるシックな建物の中にゴージャスでエレガントな内装、出迎えのマダムや黒服のソムリエ、精悍な動きのギャルソン達、集う他の客達も皆ドレッシイーで大人ばかりの最高な雰囲気の店でした。
 料理はまずシャンパンとフォアグラのテリーヌから始まりました。そのテリーヌはとても味わいが濃く美味しく、もうそれだけでも満足でした。
 その後次々と間をおいて提供されるコース料理の一品一品に私はしみじみと舌づつみを打ちました。「幸せだなー」と思いました。更にフランス料理のフルコースは、見ただけでもお腹がいっぱいになりそうなボリュームたっぷりのデザート、日本では余り見かけない濃厚な味のチーズ、そしてブランディーまでと延々3時間に亘って続きました。
 もうこれで最後だろうと思っていると、テーブルに挨拶に来られたオーナーシェフが自信たっぷりの笑みを浮かべて立ち去ったあと、最後のダメ押しのようにチョコレートとプチケーキが出されて終わりました。私は夢が実現した満足感と、「これでもう何も出てこないだろう」という解放感とでホッと一息つきました。
 ホテルに戻って寝るまでは勿論、翌朝目覚めても胃の中に「あのフォアグラがあるな」という実感がありました。

 一日目のこのフルコースで私はフランス料理を堪能できました。しかし次の日も次の日も組まれた予定は、必ず昼か夜、レストランで食事をしなければなりません。
 日本なら「じゃー次の日はおそばでも」と、なるのでしょうがそこはフランス、レストラン=フランス料理、なのは当然です。まして地方の都市ですから他に選択肢はありません。
 それでも食べ物に関して執念の深いの私はせっかくのチャンス、「郷にいれば郷に従え」とフルコースをアラカルト(一品料理)に替えてもらったときもありましたが、取り敢えず与えられた食事をその通りに頂きました。

 3日目の昼、レストランで私は初めて目の前に出されたアントレー(肉料理)を一口だけ食べて残しました。生まれて初めて(正確には昔何か知らずに頼んだ”ほや”の刺身を残した事がある)自分の意志と胃袋の反応が不一致になりました。
 「おかしいな」と思いましたが次のデザートとうとうは一口も手がつけられませんでした。額から冷や汗が出て体がだるくなりました。その夜は食欲が全く無くミネラルウォーターだけで早く床につきました。

 それ以来一月余り、食欲はすぐに戻りましたがフランス料理だけは未だ食べたいとは思いません。何と贅沢なと、思われるかも知れませんが「ご馳走は時々で良い」、これが私が今回の旅行で得た大切な教訓です。

 「毎日食べ続けられる物」これこそ真のご馳走かも知れません。

 

<とんかつ屋が選んだとんかつ屋>〜とんかつ三金〜

社外の勉強会などで知り合った初対面の方と名刺の交換等を行う際、「新宿でとんかつ店をやっています」と言うと先方の方が(私と同世代か少し上の方だとかなり高い確率で)「新宿だと、三金さんやにいむらさんなら昔よく学生の頃とんかつを食べに行きましたよ」と言われます。
 暗に「すずやは知らないが・・・」と言っておられるわけですので私はちょっと残念でありますが、やはりとんかつの新参者としましては「まだまだ修行が足りん」と反省し、さすがに大きな専門店の知名度は高いな、と今後の励みにしております。

 学生時代を東京で過ごされた団塊の世代の方々にとっては、「ご馳走=とんかつ」という思い出と共に、「新宿=とんかつ、カレー(中村屋さん)」と連想させる強い印象をもっていられる方が多いと思われます。
 さて、今回皆様にご紹介させて頂くのは今更でもありませんが、上記のように既にご承知の方も多いこの新宿を代表するとんかつの老舗店、三金さんです。
 昨年末1,2階を転業されて今では地階のみとなってしまいましたが、その老舗の貫禄は見事な物があると思います。私が同業の立場から感じる最も際だった特徴は”とんかつ”のもつ質感、重厚感の違いではないかと思います。言葉を代えれば”存在感”とも言えると思います。
 しっかりと「とんかつを食べた」という感じが残る、「満足感が持続する」とでも言えましょうか。何か表面的に大きな違いがある訳ではありませんが、肉、衣、その共々に、そしてその一皿に”価値”を感じるのです。
 長いカウンター席と落ち着いた四人掛け、店づくりも普通です。メニューにも特に物珍しい物はありません。ロース、ヒレ、海老フライ・・・・そしてとんかつソース、ご飯、シジミ汁、漬物、1人客に必ず出すスポーツ紙、一つ一つにはこれといった特徴を感じさせないのですが、トータルで見たとんかつ店として逆に、これだけオーソドックスな品質を提供し続けていることに私としては希少性を感じるのです。
 
 とんかつというのは本来こういう物なんだ、と原点を知りたいとき、美味しいとんかつを食べたい、とシンプルに考えたとき、是非とも訪ねてみたい一軒だと思います。

*「とんかつ三金」 新宿区新宿3-23-10 地下1階 電話03-3354-7833 営業時間11:30〜22:00 年中無休 ロースかつ定食=1630円、ヒレかつ定食1680円

 

<すずやの食材情報>〜すずやの醤油をお試し下さい〜

塩や水のようにさりげなく目立たない調味料や食材ほど実際には料理の「味」や人間の健康に大きく作用していることをご存じでしょうか?
 私達すずやはこのような着眼点から目に見えにくいところでも絶えず食材や調味料のブラッシュアップを心がけ努力を続けています。
 今回お知らせするこのお醤油も、もとはと言えば一軒の趣味的な健康食品店で発掘した逸品です。

 最近話題の遺伝子組み替え食品等は言うに及びませんが、本来の醤油にある大豆の香りとコク、そして天然の昆布からとった自然の甘みやヌメやかな舌触りをお試し下さい。
 漬物にではなく豆腐やロースのとんかつに合わせることをお奨めいたします。お気づきの方も多いでしょう。

       
2000年新春号 –完–
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